夏も終わりに近づくと、台風がやって来た。
すごい雨が降って、川の水があふれそうになった。すごい風も吹いた。
ぼくは怖くて怖くて、おやかたと一緒に陸橋の下でふるえた。
「大丈夫。ここにいれば安全なんだ。」
と、おやかたはぼくに言った。
ぼくは急に、桜の木を思い出した。
「ねえ、おやかた。桜の木は、いつも同じ場所にいるでしょ?
こんなすごい嵐の日でも、あそこから動けないでしょ?大変だね。たおれてしまわない?」
「ばーか。たおれるもんか。木は動物なんかより、ずっと強いんだ。」
「へーえ。」
ぼくははじめて、木を尊敬した。
前へ TOPへ 次へ